ROMANTIST TASTE

この羽よりも軽いもの?

at the BLACK HOLE」発売 

誰にも邪魔されず雑音もなしにたった独りで「at the BLACK HOLE」を
感じたくて、朝の4時半起きでレコードを聴いた。
少しでもより良い音を届けたいというYOSHII LOVINSONのこだわりから
全10曲という曲数ながら2枚組みで発表されたアナログレコード。
針を落とし流れ始めた「20GO」の音に衝撃を受けた。
“空に向け 指を立て NOBODY'S O.K? NOBODY'S O.K?”
YOSHII LOVINSONの歌声、歌詞、ギターの音、ベース、ドラム、
全てが全身に沁み込んで来る。
「SWEET CANDY RAIN」PVを見てから私はずっと、サリンジャー
書物から感じた「無垢あるいは純粋性と成熟」について考えていたのだけれど、
この「20GO」で、大人の階段を一歩登るその境目を迎えた人の
“気の揺らぎ”を感じた。
それは、“風”と言えるものかも知れないと思った。
ともかく、この一曲目から「at the BLACK HOLE」という
アルバム世界に一気に惹き込まれて仕舞った。
SADE JOPLIN」これは、本当に気持ちいい。
この人のファルセットってエクスタシーだ。
「SIDE BY SIDE」私的には、アルバム中「20GO」と双璧だ。
歌詞もサウンドもとてもツボなのだ。
“まだ平穏じゃ 平穏じゃない
一過性の夢想でもない
無理に笑うのよせ”
鋭利なカミソリでスパッと切り裂かれた気がした。
「FALLIN’FALLIN’」
セミダブル溺死体”言葉遊びの天才だ。
「BLACK COCK'S HORSE」凄い!
歌詞がとてつもなくてサウンドが格好良い。
黒いしなやかな馬がたてがみを靡かせ疾走しているのが目に浮かぶようだ。
美しいだけじゃない。力強い雄の象徴を際立たせながら。
これを歌えるのは、YOSHII LOVINSONだけだろう。
「SWEET CANDY RAIN」の“ジャンクいい”は、アルバムではちゃんと
“ジャンキー”に為っているんだね。
「AT THE BLACK HOLE」アルバム表題曲になったインストルメンタル曲は、
宇宙を思わせるオルガンが響いて不可思議な感覚を覚えた。
こうして全10曲通して聴くと、シングルで出された「TALI」も
「SWEET CANDY RAIN」もあとの曲も皆一つのしっかりした世界を
形作っている事に気づく。

BLACK HOLEという名前から私はもっともっと暗く陰鬱なアルバムなのでは?と
少々不安にも感じていた。
けれど、私はこのアルバムにあまり闇を感じなかった。
THE YELLOW MONKEYという大きな存在のバンドのエンジンを12年間力一杯
遣り続け、それを停止させて全身に受けた反動の凄まじさ。
満身創痍の状態から3年の月日を掛けて漸く立ち上がろうとする
YOSHII LOVINSONという37歳のミュージシャンのパーソナルな集大成なのだ。
私は、全てを飲み込む暗い闇だとは感じない。
このほの暗さは、胎道だろう。
新しい世界の光は、胎道を通って産まれ出ようとするのだ。