ROMANTIST TASTE

この羽よりも軽いもの?

黒い大きな帽子をかぶった「そのひと」に

『おまへはいったい何を泣いてゐるの。
ちょっとこっちをごらん。』と『やさしいセロのやうな声』で言われたい。
もちろん、「そのひと」は、何年か前に雑誌のグラビアに載った
黒い大きな帽子を被り黒いコートを纏ったあの吉井和哉の姿だ。
『さっきまでカムパネルラの座ってゐた席に
黒い大きな帽子をかぶった青白い顔の痩せた大人がやさしくわらって
大きな一冊の本をもってゐました。』
昨日私は、「バッカ」PV冒頭に映し出されるあの文章は、
ブルカニロ博士の言葉だと思っていたが、今日改めて「銀河鉄道の夜」を
読み直してみて、この黒衣の「そのひと」は、ブルカニロ博士とは
別人格の存在ではないかと感じた。
「そのひと」は、ジョバァンニに『(カンパネルラは)ほんたうに
こんや遠くへ行ったのだ。おまへはもうカンパネルラをさがしてもむだだ』
と告げる。ジョバァンニは、カンパネルラと
『いっしょにまっすぐに行かう』と二人で堅く誓い約束したと思っているのに。
『みんながさう考へる。けれどもいっしょに行けない。そしてみんなが
カンパネルラだ。・・・あらゆるひとのいちばんの幸福をさがしみんなと
一しょに早くそこに行くがいい、そこでばかりおまへはほんたうにカンパネルラと
いつまでもいっしょに行けるのだ』
「そのひと」は、なんて難しいおそろしい事を言うのだろう。
大きな緑色の切符=どこでも、どこまででも行けるという特別な切符を
ジョバンニは手にした。「あらゆるひとのいちばんの幸福」を求めなくては
いけないという果てしない旅という使命を与えられて。
第四次稿には、ブルカニロ博士も「そのひと」も登場しない。
『「カンパネルラ、僕たち一緒に行かうねえ。」ジョバンニが斯う云ひながら
ふりかへって見ましたらそのいままでカムパネルラの座ってゐた席にもう
カムパネルラの形は見えずただ黒いびろうどばかりひかってゐました。』
「黒いびろうど」の質感が私には、吉井和哉その人のように感じられる。
永遠の少年性を持つ「吉井和哉」は、ジョバンニでありブルカニロ博士であり、
菩薩のような「そのひと」であるのだろうと思う。

ああわたくしもそれをもとめてゐる。
おまへはおまへの切符をしっかりもっておいで。
そして一しんに勉強しなけぁいけない。……
みんながめいめいじぶんの神さまがほんたうの神さまだといふだらう、
けれどもお互ほかの神様を信ずる人たちのしたことでも涙がこぼれるだらう。
それからぼくたちの心がいいとかわるいとか議論するだらう。
そして勝負がつかないだらう。けれどももしおまへがほんたうに勉強して
実験でちゃんとほんたうの考とうその考とを分けてしまへば
その実験の方法さへきまればもう信仰も化学と同じやうになる。……
ぼくたちはぼくたちのからだだって考だって天の川だって汽車だって
歴史だってたゞさう感じてゐるのなんだから、
そらごらん、ぼくといっしょにすこしこゝろもちをしづかにしてごらん。
いゝか。