ROMANTIST TASTE

この羽よりも軽いもの?

セレナーデ

夜想曲集:音楽と夕暮れをめぐる五つの物語カズオ・イシグロ短編集『夜想曲集
「老歌手」を読んだ。
かつての共産国から出て来て今は、ベネチアサンマルコ広場のカフェで
いくつかのバンドを掛け持ちで弾いているギタリスト・ヤネクは、
ある日往年のアメリカの大物歌手トニー・ガードナーに出会う。
母親がトニーのレコードを愛聴していたことから
自分自身も彼のファンとなっていたヤネクは、
トニーと親しく言葉を交わす。
そしてトニーからある依頼を受ける。
ベネチア名物のゴンドラに乗り、運河からトニーの妻
リンディのいる部屋へ向けて歌を届けたい、
その伴奏をして欲しいというものだった。
27年連れ添ったトニーとリンディは、互いに愛し合っているけれど
何やら深い仔細があるようだ。
歌い終わった後にトニーから語られたのは、
もう一度第一線にカムバックする為に、
リンディとは離婚する予定という事だった。
夫婦二人で話し合って決めた事だが、
トニーには、既に売り出す時傍らに伴う為に
新しい若い女性の候補がいるのだという。
ヤネクの耳には、老いを感じさせない程、
圧倒的な歌を魅せつけたトニーだけれど、
もう純粋に音楽への情熱だけでは生きていくことが出来ない。
カムバックし人々の注目を浴びる為に、
愛と私生活を引き換えにしなくては、
いけないと信じているのだ。


『愛や私生活を引き換え』っていう部分で、
ROCKIN'ON JAPAN8月号での吉井和哉インタヴューを思い浮かべた。
今まで『ギターを弾いちゃだめだっていう
ブレーキがかかってることについて・・・
私生活のぐちゃぐちゃを歌ったりとか、
引き替えにしていた部分があった』
のだけれども、「VOLT」を完成させて、
「宇宙一周旅行ツアー」を成したことによって
『ギターを弾くことによって、トーンで出せる』
吉井和哉の音楽を鳴らせる事が出来る、
すなわち自分の宇宙を出す事が
出来るようになったのだという。
「私生活」を色濃く反映していたのは、
「MY FOOLISH HEART」や「BELIEVE」だろうか。
2006年暮れに出版された吉井和哉自伝
「失われた愛を求めて」を読んでからは、
ソロ開始以降YOSHII LOVINSON吉井和哉の曲達から
生身の吉井和哉というひとりの男の生きざまを
感じることが多くなった。
自伝が出ると聞いた時、私は、何もプライベートまで
赤裸々に晒さなくても良いじゃないかと思っていた。
でも年老い世間から忘れ去られようとしている
「老歌手」トニー・ガードナーが
スキャンダル仕立てであろうと世間の注目を浴びる
カムバックを願ったのとは違い、
吉井和哉は、音楽への情熱が勝っているのだと思う。
赤裸々に自分自身を曝す事で、もっと吉井和哉という人間を
理解して欲しい、吉井和哉の創り出す音楽に触れて欲しい、
感じて欲しいという欲求が強いのだと思う。
吉井和哉は、『観ている側も、変に依存することもなく、
単純に、自分の気持ちと、この人が鳴らしてる音っていうのを、
シンクロさせて、爆発できてるような音楽』と形容して、
山崎洋一郎氏は、「副作用とか中毒性のないドラッグみたい」
と仰っているけれど、大変残念ながら、
吉井和哉の音楽は、滅茶苦茶副作用と中毒性があると思う!

「VOLT」と「宇宙一周旅行ツアー」とで吉井和哉の音楽が
より一層確立されたのは
良〜く判るけれど、そもそも吉井和哉は、
麻薬みたいなものだもの。
魔性であることから逃げないで下さい。(笑)