九條武子「無憂華」より
愛と欲と
愛は何人も求めてやまぬ、甘美な生命の泉である。
しかし愛は、必ずしも愛のみの存在ではない。
地上における愛は、多くの場合に、それ自身愛慾の
姿となって現れている。
しかし何人も、愛慾を無下に卑しみ、これを裁くことはできない。
むしろ人生は、愛慾そのものであると思うとき、
何人も愛慾の根深き業縁に、おののかざるを得ないだろう。
愛の心のみを讃美し、みずからの欲のすがたに気づかぬところに、
地上の愛の破綻がある。理智のともしびは、そこに、
高く挑げられなければならない。智慧の光にみちびかれることなくして、
生命ある愛を求めることはできない。