ROMANTIST TASTE

この羽よりも軽いもの?

僕は天使ぢゃないよ

あがた森魚林静一の『赤色エレジー』を原作に製作・監督・脚本・音楽・
主演した映画『僕は天使ぢゃないよ』を観た。
冒頭で横尾忠則大滝詠一と道を行くあがた森魚扮する一郎の
柔らかな笑顔をみて、そして幸子が職場の同僚や掃除のおばちゃんと
突然ダンスを踊り出したり、ハムレットの寸劇が挿入されたりするシーンが
何だかとてもコミカルに思えて、林静一の「赤色エレジー」、
あがた森魚の「赤色エレジー」から受ける印象との違和感に戸惑った。
けれど一郎が故郷へ帰り幼い頃の母親との記憶を回想する場面、
まもなく父の死を知らされた場面などから、どんどん映像と
音楽に惹き付けられて、「清怨夜曲」が流れる頃には、涙が
止まらなく為り「赤色エレジー」では、遂にボロ泣きして仕舞った。
一郎と幸子の激しい抱擁も、全裸の倖子が風呂場で一郎の背中を
流すシーンも、全然いやらしくない。
緑魔子の裸は、本当に綺麗だし、一郎と幸子若い二人の愛の交歓も
切なく哀しさが勝っていた。
愛し合い互いに想い合っていても、日々の生活に磨り減らされて、
擦れ違って、やがて愛の暮らしの終わりの時を迎える。
線香花火のシーンが綺麗だった。純粋だからこそ、途方もない程
綺麗でそして儚い愛の形を象徴しているようだった。
それにしても、凄い出演者達だ。
横尾忠則大瀧詠一鈴木慶一泉谷しげる
岡本喜八監督が出ているのには驚いた。
その他大勢のミュージシャンが出演していて、あがたさんの人徳なのだろう。
一郎と幸子の暮らす4畳半の部屋の場面はモノクローム
草原や海や外界の人々の場面は、鮮やかな色彩で。
心象風景を切り取ったような映像も素敵だと思ったけれど、
映画をここまで惹き立てているのは、やはり音楽の力が大きいと感じた。
「乙女の儚夢」「清怨夜曲」「赤色エレジー」「僕は天使ぢゃないよ」
このあがた曲の凄さは勿論だが、「街の君」の西岡恭蔵、「ゆうぐれ」の
友部正人、そして何と言っても「びんぼう」の大瀧詠一
「それはぼくじゃないよ」「乱れ髪」の松本隆大瀧詠一コンビが素晴らしい。
音楽と映像が融合されて凄まじい相乗効果を醸し出す逸品だと思う。
今まで知らなかったのが勿体無いけれど、今あがたさんのBOXやこのDVDに
出会えた事を幸せに思う。本当に観て良かった。
付け加えると、幸子が一郎に別れを切り出された場面で
『旅行にだって行かなかった。・・・これから二人で・・・。』と
訴えた言葉に、YOSHII LOVINSONの『TALI』が思い浮かんだ。
アルバム発売時のインタヴューで「TALIのテーマは、9・11」と
話されているけれど、『TALI』からは、「赤色エレジー」の匂いも
感じられる。感じる事は自由だよね。
しなやかに柔らかに色んな事を感じられる感受性を大切にして
生きたいと願う。